2006/07/06

ある回想 〜浴衣をめぐって〜

先日、外国人のお客様がみえたので、母の提案で、浴衣を着せてあげることになりました。
もう5、60代にもなる彼女が選んだのは、紺地に大輪の黄色いひまわりが描かれている浴衣。
27にもなる私がそれを着ると、うんと幼い印象になってしまうので、いただいたものの、着ることもなく仕舞ったままでいましたが、彼女は、目の前に並べられたいくつかの浴衣を見るやいなや、「yellow!」と迷いのない晴れやかな笑顔を浮かべて、それを手に取っていました。

そして、それは不思議なほど彼女によく似合っていました。

浴衣を着た彼女は、何だか急に、まるで大和撫子のようにおしとやかになって、何だかいかにもかわいいのです。

浴衣には、そんな不思議な力があるかもしれません。



私も小さな頃、きっと多くの女の子がそうであったように、浴衣が好きでした。

慣れない下駄をカランコロンと鳴らしながら、まだ肩あげの白地に赤い花の浴衣を着て夕涼み会に向かう、日の暮れかけたいつもの通学路の道すがら、人の家の窓だとか、車だとか、自分の姿を映すものがあれば何度だって見ては、何だか急に女の子女の子したような気持ちになったのを覚えています。

私の小学校では、毎夏、夕涼み会というものがありました。

ぐるりと吊された提灯にうっすらと灯りがともって、いつもとはまったく別の顔をした校庭が、何だか妙に楽しい。

真ん中のやぐらからは、祭太鼓や祭囃子の笛の音が響き渡っていて、胸に反響するように響き、身体全体でドキドキする。
あちこちから漂ってくる、やきそばやらたこやきやらのおいしそうな匂い、小さなプールに浮かんだ色とりどりのヨーヨー風船、すれ違う子の手に握られている、ふわふわ大きなわたあめ、楽しそうに笑うみんなの舌を赤や青や黄に染める、キンと冷たく冴えたかき氷、そして、私はお決まりの「みぞれバー」。
帯に挟んだ小さながまぐちを、なくしたり落としたりしないようにちょっと気が抜けない。

お祭もそろそろ中盤に差し掛かってくると、そんな熱い興奮をふっと抜けて、何となく、校庭の隅の方に行ったりするんです。
なぜかちょっと密やかな、ちょっと大人びた気持ちになったりしながら。

そしてそこにはすでに男子たちがいたりして、ねずみ花火とかやってたりするんです。
火薬の匂い、花火の音。パンパン!
そしてその中に、好きな人がいたりして、浴衣の自分を見てほしくて、わざとそばを通ってみたりして。
でもなぜかしゃべらなかったりして!
何だか、教室でだとよくしゃべるのに、今日は妙に照れくさくて、「男子」とか「女子」とかそんなのがぐんと大きい。

お祭が終わって帰る頃には、じっとりと纏わりついてくる湿った空気で、顔も手足もベタベタ、浴衣もしわくちゃ、そして鼻緒が足に当たってちょっと皮がむけてきたりしてるんですよね。
帰って来た後、お風呂がしみるんです。



今こうして大人になって、町内会のお祭なんかをたまに見つけても、自分より背丈の小さい人たちがピーピーキャーキャー言っていて、ああ嫌だなぁと思ってその場をすぐに立ち去ろうとしてしまうけど、自分が子供の頃、夏のお祭ってやつは、そういえばこんなにもドラマがあったんだったっけ、とふと思い出しました。

もう夏です。
大人としては、大切な人と缶ビールか何か飲みながら、団扇でも仰いで夕涼みなんてしたいものです。

今年もなんだかんだいって昨年と同じ浴衣を着てしまいそう・・・